NISAの損失は損益通算できない――この仕組みを知らずに始めると、いざ含み損を抱えたときに「課税口座なら取り戻せたはずの税金」を取り戻せず、思わぬ不利を被ることがあります。NISAは利益が非課税になる強力な制度ですが、その裏返しとして損失も税務上「なかったもの」として扱われるという弱点があります。この記事では、損益通算と繰越控除がなぜNISAでは使えないのかを公的な根拠つきでわかりやすく解説し、損したときに実際どれくらい不利になるのかを独自シミュレーションで具体的な金額として示します。慎重に制度を理解したうえで、無理のない範囲で活用していきましょう。
なお、本記事は2026年6月時点の制度・税制にもとづいています。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、投資には元本割れのリスクがあることを必ず念頭に置いてください。
NISAの損失は損益通算できない|まず結論から
先に結論をまとめます。NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠の両方)で売却して損失が出ても、その損失は税金の計算上いっさい使えません。具体的には次の2つができないのが、慎重派の投資初心者がまず押さえるべきポイントです。
- 損益通算ができない:特定口座・一般口座で出た利益と相殺できない
- 繰越控除ができない:その年に使いきれない損失を翌年以降(最長3年)に持ち越せない
国税庁は、NISA(非課税口座)内で生じた損失について「非課税口座内で生じた損失はないものとみなされる」と明記しています(出典:国税庁 No.1535 NISA制度)。つまり利益が非課税で「ゼロ扱い」になるのと同じように、損失も税務上ゼロとして扱われるわけです。
損益通算とは何か(課税口座のしくみ)
損益通算とは、同じ年の中で「投資の利益」と「投資の損失」を相殺できる制度です。たとえば特定口座でA株を売って20万円の利益、B株を売って20万円の損失が出た場合、課税口座どうしなら利益と損失を相殺して課税対象をゼロにできます。本来なら20万円の利益に約20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税の合計)がかかり、約4万円の税金が引かれますが、損益通算すればこの約4万円を払わずに済みます。
繰越控除とは何か(最長3年の持ち越し)
繰越控除とは、その年に相殺しきれなかった投資の損失を、確定申告をすることで翌年以降最長3年間繰り越し、将来の利益と相殺できる制度です。課税口座であれば、大きな損失が出た年でも、翌年以降の利益にかかる税金を軽減できる「救済措置」として機能します。ところがNISAでは、この救済措置がいっさい使えません。
なぜNISAでは損益通算・繰越控除ができないのか
「非課税という恩恵があるのだから仕方ない」と言われても、理由がわからないと納得しにくいものです。ここでは制度の考え方を逐条的に整理します。
「利益が非課税」の裏返しだから
損益通算や繰越控除は、本来「利益に課税される」ことを前提にした、税負担を軽くするための仕組みです。NISAはそもそも利益に税金がかからないため、税負担を軽くする救済措置を用意する必要がない、というのが制度の基本的な考え方です。利益が出れば非課税で大きく得をする代わりに、損失が出ても税務上は考慮されない――この非対称性がNISAの設計思想だと理解しておくと、誤解が減ります。
制度をシンプルに保つため
仮にNISAの損失を課税口座と通算できるようにすると、非課税口座と課税口座をまたいで損益を管理する必要が生じ、制度が非常に複雑になります。誰でも使いやすい少額投資の制度にするという目的から、損益を口座ごとに切り離してシンプルに保っている側面もあります(参考:金融庁 NISA特設ウェブサイト)。
2026年時点でもこの扱いは変わらない
2024年から始まった新しいNISA、そして2026年度税制改正をふまえても、「NISA内の損失はないものとみなす」という税務上の扱いは変わっていません。制度が拡充されても、損益通算・繰越控除ができない点は据え置きです。今後利用する際も、この前提は崩れないものとして資金計画を立てるのが安全です。
損益通算できないと実際いくら不利?独自シミュレーション
言葉だけではピンと来にくいので、「同じ損失額でも、NISAで損した場合と特定口座で損した場合で、取り戻せる税金がどれだけ違うか」を独自に試算しました。慎重派の方ほど、最悪のケースを数字で把握しておくと判断がぶれにくくなります。
【前提条件】同じ年に特定口座で投資の利益が出ており、その利益と同額の損失が別途発生したと仮定します。税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)。損益通算によって取り戻せる税金=「損失額×20.315%」として計算しています。実際の税額は他の所得や控除により異なります。あくまで仕組みを理解するための単純化した試算です。
損失額別・取り戻せる税金の差(NISA vs 特定口座)
| 売却で出た損失額 | 特定口座で損益通算した場合 (取り戻せる税金) |
NISAで損失が出た場合 (取り戻せる税金) |
NISAだと失う節税メリット |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 約20,315円 | 0円 | 約20,315円 |
| 30万円 | 約60,945円 | 0円 | 約60,945円 |
| 50万円 | 約101,575円 | 0円 | 約101,575円 |
| 100万円 | 約203,150円 | 0円 | 約203,150円 |
このように、損失額が大きいほど「NISAだったために取り戻せなかった税金」も大きくなります。たとえば50万円の損失が出て、本来なら特定口座で約10万円の税金が戻ったはずのケースでも、NISAでは1円も戻りません。ただしこれはあくまで「同じ年に課税口座で相殺できる利益があった場合」の話であり、利益が出ていなければ損益通算しても取り戻せる税金はそもそも発生しない点には注意してください。
逆に「利益が出たとき」はNISAが圧倒的に有利
損失面だけ見ると不利に思えますが、視点を変えると話は逆になります。同じ50万円の利益が出た場合、特定口座なら約101,575円の税金が引かれますが、NISAなら非課税で0円です。長期の積立投資では、最終的に利益が出ている可能性のほうが歴史的には高いとされます(もちろん将来を保証するものではありません)。「損したときに不利」という弱点よりも、「利益が出たときに非課税」というメリットのほうが、長期・分散・積立を前提とする初心者にとっては効いてくる、というのが慎重に見たうえでの一つの整理です。
NISAで損失を出さない・最小化するための考え方
損益通算が使えない以上、NISAでは「そもそも狼狽売りで損失を確定させない」ことが何よりのリスク管理になります。慎重派が押さえておきたい考え方を整理します。
長期・積立・分散で値動きをならす
一括で高値づかみをすると、下落局面で含み損に耐えられず売ってしまいがちです。毎月一定額を積み立てるドルコスト平均法や、全世界株式などへの分散によって平均購入単価をならすと、暴落時に慌てて売るリスクを下げられます。値動きを完全に避けることはできませんが、売却益を非課税にできるNISAの強みは「売らずに持ち続ける」ことで最大化されます。
生活防衛資金を確保してから投資する
NISAで損を確定させる典型パターンは、急な出費で現金が必要になり、相場が下がっているときに泣く泣く売るケースです。生活費の3〜6か月分程度を現金で確保したうえで、余裕資金だけを投資に回せば、暴落時に売らずに済む確率が高まります。「NISA枠を急いで埋めようとして生活費まで投資に回す」のは避けたい行動です。
非課税枠(年360万円・生涯1,800万円)を焦って使い切らない
2026年時点の新NISAは、年間投資枠が最大360万円、生涯の非課税保有限度額が1,800万円です。枠が大きいからといって最速で埋める必要はありません。自分の収入とリスク許容度に合った金額を、無理のないペースで積み立てるほうが、結果的に損失の確定を避けやすくなります。
NISAの損益通算でよくある失敗・落とし穴
最後に、初心者が誤解しやすいポイントを「落とし穴」として整理します。ここを押さえておくと、確定申告や口座選びでの失敗を防げます。
失敗1:NISAの損失を確定申告で取り戻せると思い込む
「損したら確定申告すれば税金が戻る」というのは課税口座の話です。NISAの損失は税務上ないものとされるため、確定申告をしても損益通算や繰越控除の対象にはなりません。確定申告で使えるのは課税口座(特定口座・一般口座)内の損失だけ、と覚えておきましょう。
失敗2:NISAと特定口座の利益・損失を相殺できると誤解する
たとえばNISAで10万円の損失、特定口座で10万円の利益が出ていても、両者は相殺できません。特定口座の10万円の利益にはそのまま約20,315円の税金がかかります。口座をまたいだ通算はできない、という前提で資金配分を考える必要があります。
失敗3:含み損のまま狼狽売りして非課税メリットを捨てる
NISAの最大の強みは「利益が非課税」であることです。一時的な含み損に動揺して売却すると、損失は税務上ゼロ扱いで取り戻せないうえ、将来の値上がりによる非課税メリットも放棄することになります。売却の判断は、暴落時の感情ではなく、あらかじめ決めた出口戦略にもとづいて行うのが安全です。
まとめ|NISAの損益通算は「できない前提」で使う
NISAは利益が非課税になる代わりに、損失は税務上「なかったもの」とされ、損益通算も繰越控除もできません。これは2026年時点でも変わらない制度の前提です。だからこそ、NISAでは「損失を確定させないこと」がリスク管理の中心になります。
- NISAの損失は損益通算・繰越控除ができない(国税庁 No.1535で「ないものとみなす」と明記)
- 同じ損失でも、課税口座なら取り戻せた税金(例:50万円の損失で約10万円)がNISAでは戻らない
- 一方で利益が出れば非課税のメリットは絶大。長期・積立・分散と生活防衛資金の確保で「売らずに済む」状態を作ることが、この弱点への最善の対策
制度の弱点を正しく理解したうえで、ご自身のリスク許容度に合った無理のない金額から始めてください。投資には元本割れのリスクがあり、最終的な投資判断はご自身の責任で行うものです。判断に迷う場合は、金融庁や国税庁の公式情報を確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
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